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【ソラの子】空2 崩れた日常2

  • kululu0607
  • 2022年5月1日
  • 読了時間: 5分

 挨拶所か一言しか発していないのだから。


「あら、それじゃあちゃんと挨拶してこなきゃ駄目よ。今ツナの部屋でツナとお話しているから、アーちゃんも行ってらっしゃい」


 笑顔で言う奈々に飛鳥は乗り気じゃなかったが、椅子から立ち上がった。すぐにリュウとフェイへと視線を送ると、奈々は笑顔で言ってくれた。


「二人の事は私が一緒にいるから大丈夫よ」


 ニコニコと言う奈々に飛鳥は小さく答える。


「…………うん、じゃあ行ってくる」


 そう告げ、あまり行きたくないと思いながらも、飛鳥は階段を上って部屋へと歩いていく。

 綱吉の部屋が近くなるにつれて何やら綱吉の困惑している声が聞こえ、飛鳥は首を傾げながらもドアを開けた。


「綱吉、奈々が家庭教師に挨拶しなさいって」


 説明をしながら部屋を見た飛鳥は状況が飲み込めず、再び首を傾げた。



 あの赤ん坊は奈々も言ったのだから家庭教師である筈、だ。でも今自分の目の前にいる赤ん坊はその手に立派なライフルを構えているのだ。



「……綱吉射撃もするの?」


 取り合えず尋ねてみると全力で綱吉は言った。


「しないしない!てか飛鳥!この変なのに巻き込まれない内に下に戻った方が良いって!」

「変なの……?家庭教師じゃないの?」


 尋ねる飛鳥に綱吉は何とも言えない表情で口篭っている。どうやら綱吉も状況を飲み込めていないらしい。そんな綱吉を見てなのか、飛鳥が来るのを待っていたのかリボーンが話し掛けてきた。


「改めて自己紹介するな。オレの名前はリボーン。イタリアからある男の依頼で沢田綱吉をマフィアのボスにするのがオレの本当の目的だ」


 ジャキ、とライフルを構えるリボーンに飛鳥は何も返答しなかった。ただ黙ってリボーンの事を見下ろしていて、上から下までまじまじと見ている様だった。



 その目が若干冷たく見えるのは気の所為ではないと思う。



(あ――飛鳥完全に警戒しちゃったよ……当たり前だけど)


 リボーンが怪しいのは勿論の事だけれど、飛鳥があっさりリボーンの存在を受け入れない事など分かりきっていたので、綱吉は頭を掻きながら思っていた。



 飛鳥の他人嫌いは異常な程酷い。心を開いて話すのは家族だけだ。



 そんな飛鳥だからリボーンの事をどう思い感じるのか予想は付いていたが、いざそれを目の前にしてしまうとやはり困る。

 と、言うよりも今は自分の置かれているこの状況をどうにかしなければならなかった。


「兎に角!俺はそんな訳の分からない事迷惑だし知らないよ!」


 ドン!とテーブルを叩きながら言ってやったのだが、リボーンは飛鳥の事を不自然な位に見ていたのだ。


(何でそんな目で飛鳥の事を見るんだよ……)


 正直自分の事は好き勝手に見ればいい。でも飛鳥に対しては別だ。



 自分の大切な妹を差別する様な目で見て欲しくない。



 リボーンの視線に不快感を感じ出した綱吉が口を開こうとした瞬間、リボーンがハッキリと尋ねてきたのだ。



「お前本当に沢田綱吉の妹か?」



 その一言に飛鳥も綱吉も目を見開いた。いきなり現れた人物に兄妹である事を否定されたのだ。


「…………ふ」


 綱吉はキツイ位に握り拳を作り、激しくテーブルを叩いた。


「ふざけるな!飛鳥は俺の妹だ!」


 何も答えない飛鳥の手を掴むと、綱吉は乱暴に部屋を出て行こうとする。それに対しても飛鳥は何も言わず、唯黙って綱吉の事を見つめていた。


「俺は絶対に家庭教師なんかいらないし冗談じゃない!」


 そうリボーンに告げ、どかどかと階段を降りていく。


「ツッ君?アーちゃん?何処に行くの?」

「ご飯外で食べ来る!」


 奈々の顔を見る事もなく、告げるだけ告げると綱吉はどんどん外へと飛び出していった。しっかりと飛鳥の手を掴んだまま…………。

 その姿を綱吉の部屋から見るリボーンは小さく呟く。


「話に聞いた通り…………か」


 ずかずかと歩く綱吉に向かって、飛鳥はやっと口を開いた。


「綱吉、大丈夫?」


 怒っている事など尋ねなくても分かっていたので、そう声を掛けた。いや、そう思ったから言ったのだ。

 声を掛けたら綱吉は歩みを止め、小声で答えた。


「…………ごめん」


 そう一言。


「………………どうして綱吉謝るの?」


 何に対して謝ってきているのか分からず、首を傾げると綱吉は言う。


「……俺が駄目駄目過ぎるから家庭教師まで来る羽目になったから」


 駄目人間だから家庭教師と言うリボーンと言う人物が来た。そしていきなりあんな事を言われた。



 それは全部自分が駄目人間だからなんだ。



 そう言っている様だった。


「それは悪い事なの?」


 サラッと尋ねてくる飛鳥に綱吉は振り返って言った。


「だってあんな事言われたんだぞ!飛鳥嫌な思いしただろう !? 」


 兄妹をいきなり否定された事、を言っているのだと理解した飛鳥ははっきりと答えた。


「気にならない」


 全く気にならないと言ったらそれは嘘になる。学校の人間が言う冗談とリボーンが言ったのは別であると理解していたから。



 リボーンは確証を持って言って来ていたのだから。



 それでも平気な理由が飛鳥にはあった。


「綱吉はにぃだから。周りはどうでもいい」

「飛鳥……」


 ギュッと繋がっているこの手がある限り。暖かい温もりがある限り。



 綱吉が想ってくれる限り。



「綱吉は私のにぃでしょ」


 そう言う飛鳥に綱吉は両手をしっかりと握り締めて頷いた。小さく暖かい飛鳥の手は答える様に握り返してきて。


「うん。…………俺は飛鳥の兄貴だよ」

「綱吉がそう思ってくれてれば十分だよ」


 だから大丈夫。そう伝えてくる飛鳥に向かって綱吉は言って来た。


「何とかしてみるから、俺」


 だからまた二人の平和な日常が続けられるから。それが二人の願いだから。




 けれど、現実はそう上手くいかない。この日、当たり前だった生活が崩れ出した。



ソラのコ

空2  崩れた日常

(2016,4,4 飛原櫻)

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